カウンター|足が細く見えるストッキング

久しぶりに新宿の東口に来たから、適当なバーに入った。
入り口に背を向ける用に座るカウンター席が2席。そこからL字に曲がって8席。
その8席の後ろに申し訳ない程度のテーブル席が2つ。
席数もさる事ながら、目を泳がせて直ぐに看板が目に入るような所だから、
私が入った時は大分埋まっていて入り口の2席の端に寄せられた。

 

 

 

まずバーテンダーから手渡されたのが良い香りをするおしぼりだったから、
それを会話のきっかけにウォッカベースのカクテルを頼む。
それからジンベースに移って、テキーラベースへ。
雑な飲み方だけれど、今日はそう言う気分なのだから仕方が無い。

 

さて次は、と思ったのが23時49分。
丁度、そのカップルが入ってきた時間でもある。

 

カウンターが埋まっていたから、二人はテーブル席に通された。
一人は身長が180に届かない位の男。顔が芸能人の誰かに似ているけれど、名前が出てこない。
もう一人は女性。細い四肢だが顔を含めて胸元がどうかはよくわからない。
なぜって、彼女が私に背中を向ける位置で座っているから。
ちなみに、男の顔については2秒で考えるのを止めたから、出てこないとかのレベルでは無い話。
男の顔についてうだうだと考えながら酒を飲みたくはない。
何にしてもこの手のカップルはさっきから入れ替わり立ち替わりだったから、珍しい存在じゃ無かった。

 

ただ男が、
「僕の好きは君の嫌いかもしれないけれど」

 

とか、来て早々に口に出すから
「JTかよ」
なんて心で突っ込んでしまって、なんとなく気になった。

 

それに、女性が髪を縛っていたから。
縛っているその様がなんとなく・・・

 

 

「次は流行のミクソロジーカクテルなんてどうです」
30代半ば位に見える、私と同じ年くらいのバーテンダーがそう話しかけてきていた。
そうだ、カクテルを探しているんだった。
我に返りついでに
「みくそろ・・・何?」

 

と、私はバーテンダーに眉間を寄せた顔を向けた。

 

 

 

それがリキュールなどを使わずに、
野菜やフルーツ、ハーブやスパイスを、ジンやらウォッカやらをベースにして、
作るカクテルだとバーテンダーは丁寧に話してくれた。
「へー」と言ってみたものの、耳はさっき入ってきたカップル、それも女性の方に向いていた。

 

「え、いや、それはちょっと」
「電車・・は、もうないですけど」

 

糸のような音がどうにか届いてくる。
元々会話が多いカウンターではないけれど、誰かしら話している中で聞き取るのは大分難しい声。
でも聞ける。それはきっと・・・

 

「んー今日はちょっと」
「また、今度考えさせてください」

 

右手を時折口元に持っていく女性の仕草。
いや、それより彼女のワンピースの襟が折り目が少し崩れている感じ。
きっと・・・が、確信になっていく。

 

「え、あ、大丈夫です。どうにか帰れると思うんで」
「えーと、タクシーとかひろって」
それは断定しないと駄目だろう。

 

 

と、突っ込みつつ「彼女なら仕方が無いか」と苦笑いを向けた。
丁度それはバーテンダーがカクテルを置いたときだから

 

「タイミング」と照れた感情に突っ込みを入れてから、私は席を立って二人の元に向かった。

 

 

「なにしてるの」
私が声をかけたのは女性の方。
彼女は私を見ると、「え、なんでここに」と目で言った。
それが口に出る前に「誰?」と男が言うから

 

「突然すいません。彼女の友達なんですけどね」
と頭を下げてから、続けて
「申し訳無いけど、今の会話の流れだったんで、彼女の助け船を・・・と思って」

 

男はそれから少し顔を赤くして何かいったけれど、その色がさめる前にお引き取りいただいた。
幾らもおいていかないから、たぶん空ききっていないロングとカクテルのグラスは私が支払う必要があるのだろう。
それもまた仕方が無い、溜息交じりに男の居た席へ私は座った。

 

 

「なにしてんの」
「・・・ごめんなさい」

 

まぁ、別に私が彼女の男選びに何か口を出すような立場じゃ無いけれど。
「ありがとうございます」と彼女が続けたから、悪いことをしたわけじゃないらしい。

 

 

「余計なお世話だろうけど、あれは全然断ってないから」
「え、あ、いや、がんばってるんです、あれでも」

 

相も変わらずか細い声。
ついでに何か言うときにちゃんと目をみて口を動かすところ。

 

彼女らしいっちゃ彼女らしい。

 

「きっと男は期待したよ。そしてまだしてると思うよ」
「・・・そうですよね・・・断り切るの難しくて」
「その細いのに、良い感じに膨らんだ唇にキスを想像してただろうよ」

 

思いっきり首を横にして目線を外してから、彼女が言葉を絞り出す。
顔を赤くして。

 

「そ、そんなことないです」
「そう?」

 

そこらへんで、バーテンダーが「なんとかソロジー」の「なんたら」をテーブル席に持ってきてくれた。口を付けるが、うーん。
「次は、ジントニックで」と私がいうからバーテンダーが苦笑いを向けてくれる。

 

さてさて、と彼女に目線を戻してから

 

「相変わらず首が細いな」

 

彼女にそう言ったから、また思いっきり視線を外される。
何を言うか知らないけれど、さっきより顔が赤くなったのはわかった。